水/オクタノール分配係数の計算
【logP値の計算】
医薬品等の分子設計を行う上で、重要な指標となる物性値の1つに分配係数logPがあります。logPとは、水/有機溶媒の二相系において、それぞれの相中に溶けている溶質濃度の比Pの常用対数であり、溶質の親水性・疎水性を表わす重要な指標として頻繁に用いられています。
このlogP値は、溶質の水中および有機溶媒中での溶媒和自由エネルギーを元に算出することが出来ます。
CONFLEXでは、GB/SAモデルを用いた水およびオクタノール中での溶媒和自由エネルギー計算から、水/オクタノール分配係数logPow値を自動的に算出することが出来ます。ここでは、logP値計算の概要と、入力の指定および出力される内容について説明します。尚、GB/SAモデルによる溶媒和自由エネルギー計算の詳細につきましては、「溶媒和自由エネルギーの計算」をご覧ください。
【logP値と溶媒和自由エネルギーの関係】
水/オクタノール分配係数logPow値と、水およびオクタノール中での溶媒和自由エネルギー(ΔGwat、ΔGoct)には、以下のような関係があります。
ここでRは気体定数、Tは絶対温度です。
【logP値の計算例】
1-Butanolを例に、logPow計算を行う方法について説明します。
座標データ(1-butanol.mol)
1-butanol.mol 15 14 0 0 0 0 0 0 0 0999 V2000 -1.1802 -1.8691 -0.0000 C 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0.1388 -1.1076 -0.0000 C 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 -0.1388 0.3899 -0.0000 C 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1.1802 1.1514 -0.0000 C 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0.9247 2.5299 -0.0000 O 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 -0.9774 -2.9634 -0.0000 H 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 -1.7631 -1.6004 0.9093 H 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 -1.7637 -1.6001 -0.9088 H 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0.7217 -1.3763 -0.9093 H 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0.7223 -1.3766 0.9088 H 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 -0.7217 0.6586 0.9093 H 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 -0.7223 0.6589 -0.9088 H 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1.7631 0.8827 -0.9093 H 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1.7637 0.8824 0.9088 H 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1.7610 2.9634 -0.0000 H 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 2 1 0 1 6 1 0 1 7 1 0 1 8 1 0 2 3 1 0 2 9 1 0 2 10 1 0 3 4 1 0 3 11 1 0 3 12 1 0 4 5 1 0 4 13 1 0 4 14 1 0 5 15 1 0 M END
[Interfaceから実行する場合]
1-butanol.molファイルをCONFLEX Interfaceを用いて開きます。
Calculationメニューから「CONFLEX」を選択し、開いた計算設定ダイアログの「Detail Settings」をクリックします。詳細設定ダイアログが開きます。
詳細設定ダイアログの右下にある
をクリックし、開いたダイアログに「LOGP=FREE」を追加してください。これにより、気相中と溶媒中両方での振動解析計算に基づいた溶媒和自由エネルギー計算からlogPow値を算出します。設定が終わりましたら、
をクリックします。LogP値の計算が行われます。「LOGP=」キーワードのオプションには「FREE」の他に、「OPTIMZ」、「SINGLE」があります。オプションを変更することで、それぞれの近似レベルに基づいた溶媒和自由エネルギー計算からlogPow値の算出を行うことが出来ます。各オプションの近似レベルの詳細につきましては、「溶媒和自由エネルギーの計算」をご覧ください。
[コマンドラインから実行する場合]
計算設定は、1-butanol.iniファイルにキーワードを記述することで行います。
1-butanol.iniファイル
MMFF94S LOGP=FREE
「LOGP=FREE」は、気相中と溶媒中両方での振動解析計算に基づいた溶媒和自由エネルギー計算からlogPow値を算出すること意味します。
「MMFF94S」は、MMFF94s力場を用いて計算を行うことを意味します。
「LOGP=」キーワードのオプションには「FREE」の他に、「OPTIMZ」、「SINGLE」があります。オプションを変更することで、それぞれの近似レベルに基づいた溶媒和自由エネルギー計算からlogPow値の算出を行うことが出来ます。各オプションの近似レベルの詳細につきましては、「溶媒和自由エネルギーの計算」をご覧ください。
1-butanol.molと1-butanol.iniをフォルダに格納し、下記コマンドを実行してください。計算が始まります。
C:\CONFLEX\bin\flex9a_win_x64.exe -par C:\CONFLEX\par 1-butanolenter
上記は、Windowsの場合です。他のOSにおける実行コマンドについては、本書の「実行方法」を参照してください。
計算結果
1-ButanolのlogPow計算を行った際の出力を示します(1-butanol.bso)。実験値は0.88です。
計算は、気相中―オクタノール中―水中の順で行います。オクタノール中および水中での計算が終了すると、それぞれの溶媒和自由エネルギーが出力されます。
1-Butanolのオクタノール中での溶媒和自由エネルギー
SOLVATION ENERGY (DIFF. OF TOTAL ENERGY) = -5.85364 (KCAL/MOL) SOLVATION ENERGY (DIFF. OF FREE ENERGY) = -5.92111 (KCAL/MOL)
1-Butanolの水中での溶媒和自由エネルギー
SOLVATION ENERGY (DIFF. OF TOTAL ENERGY) IN WATER = -4.50971 (KCAL/MOL) SOLVATION ENERGY (DIFF. OF FREE ENERGY) IN WATER = -4.72882 (KCAL/MOL)
全ての計算が終了した後、.bsoファイルの末尾には下記のように溶媒和自由エネルギーから求められたlogPow値(0.875)が出力されます。
logPow値計算のSummary(1-butanol.bsoファイルの末尾)
!------------------------------------------------------------------------------------! ! ! ! *** SUMMARY OF LOGP CALCULATION *** ! ! ! ! FORMULA: LOGP = (DELTAG(WATER) - DELTAG(OCTANOL))/(2.30*R*T) ! ! (R = 1.9872065 (CAL/(K*MOL)) T = 298.15 (KELVIN)) ! ! ! ! DELTAG(WATER) = -4.72882 (KCAL/MOL) ! ! DELTAG(OCTANOL) = -5.92111 (KCAL/MOL) ! ! ! ! LOGP = 0.875 ! ! ! !------------------------------------------------------------------------------------!