CONFLEXは、フレキシブルな分子の配座空間を探索し、化学的に重要な配座異性体の最適化構造をもれなく見つけだします。
通常の構造最適化プログラムでは、ユーザーが入力した初期構造に依存した、局所的な最適化構造しか求めることができません。しかしCONFLEXでは、実践的に意味のある安定な配座異性体を優先的に創出することにより、効率的な配座空間探索を実現します。

配座空間探索

CONFLEXは、適当な分子力場のポテンシャル空間中に存在する、予め特定できないエネルギー極小点、すなわち配座異性体を発生するプログラムです。一般に、プログラムを用いて配座を発生する場合、出発構造の座標発生、構造最適化、そしてユニークな配座異性体であるかどうかのチェックといった、ある決まった手順(アルゴリズム)に従って配座空間を探索します。既往のプログラムの配座探索アルゴリズムは系統的手法、及びランダム法に大別できます。
CONFLEXにおける配座空間の探索法は、貯水池(Reservoir)アルゴリズムと呼ぶ、独自の方法です。出発構造の発生方法として用いたCorner Flapに加え、Edge Flip及びStepwise Rotationを導入することによって、様々な分子構造(環式分子、非環式分子)に対応しました。また、新たに改良を加えたプレチェックや二面格差RMS比較法によって、効率的な配座空間の探索を実現しました。

CONFLEX Algorithm

貯水池(Reservoir)アルゴリズムのコンセプト

貯水池アルゴリズムは、空の貯水池に水が注ぐがごとく素早く最安定点に到達、満ちるがごとく重要な領域を調べ尽くしていきます。そして、上限の高さまで水位が到達すると、探索を終了します。例えば図に示したように、任意の安定配座(1)から探索を開始したとしましょう。この配座を基点とし、その周辺の空間にあるエネルギー極小配座(線で結ばれた配座)を調べることによって、水が流れ落ちていく方向を見きわめます。水の流れは最も低い方へ向かうはずであるから、見つかった配座の中から最もエネルギーの低いものを次の基点(2)とします。このように、基点周辺を綿密に調べ、低い方向へ移動する過程を繰り返すことによって、素早く最安定配座(3)に到達することができます。探索が最低地点に達すると貯水池の水位は徐々に上昇し始めると同時に、今度は基点となる配座をエネルギーの高いものへ移していきます。つまり、ここまでに得られた極小配座の中から、まだ基点になっていない最もエネルギーの低い配座(4)を選び、同様な操作を繰り返して行くことになります。そして、徐々に高エネルギーの配座を基点として用い(例えば7, 8,.....)、やがて予め設定しておいた上限(例えばLimit1の最安定配座から5kcal/mol)まで基点が到達した時点で、探索が完了したとみなします。

Reservoir Algorithm

以上のアルゴリズムによる配座探索は以下の特徴により、既存の配座探索プログラムよりも計算時間が短くなります。

  1. 最安定配座を素早く、そして確実に発生することができる
  2. 低エネルギー領域に存在する配座から集中的に発生するため、重要な配座異性体を見逃さず発生できる
  3. サーチリミットを適切に調節することによって、探索する領域をある程度限定的できる

Corner Flap

他の配座探索プログラムに用いられているアルゴリズムの多くは、基点から配座を一つだけ発生するか、あるいは離れた配座空間に存在する配座、すなわち基点とは全く異なる構造を持つ配座を発生します。 一方、貯水池アルゴリズムは、一つの、基点から複数の配座を発生させるが、基本的にこれらの配座は基点の配座と近い構造を持っています。つまり、空間的に近い(構造的がよく似ている)配座を発生することを意味します。基点を入れ換えながら配座空間を歩き回ることは、配座群の間のネットワークを考慮しているといえましょう。
基点周辺にある配座が発生する際、基点構造に対し部分的に小さな摂動を加え、適当な力場を用いて構造最適化を行うことにしました。局所的な摂動は、安定な配座が持っている安定な部分を乱さないため、素早く極小点に落ち、依然として安定な(空間的に近い)領域にとどまる確立が高い配座を発生すると考えられます。以前発表したCONFLEXでは、この局所的な摂動として、Corner Flapを用いました。この操作は、我々が分子模型でしばしば行う、シクロヘキサンのいす形から舟形の配座交換をまねた操作です。

Corner Flapping

その後研究が進むにつれ、この操作は次のような2つの問題点を持っていました。一つは、Flap原子を挟むねじれ角がGauche+、-と続いた時に最も効果的な操作であって、同符号のGaucheが続いた場合には原理的に全く変形を加えることができないということです。さらに、大きな環式分子に適用した場合、一方のねじれ角にAntiが存在すると、予測していなかった無理な変形を行うことがあるということも問題でした。これは、本来環の外側に向けられるべき操作が、内側に向けて大きくFlapされることに起因していました。したがって、Corner Flapはより大きな環の配座空間を探索するには少し単純すぎて、配座発生能力に限界が生じてくることが判ってきました。

Edge Flip

そこで、より大きな環式分子に対応した新たな摂動として、Edge Flipを考案しました。この操作は、注目している環を構成する一本の結合のねじれ角がGaucheであれば異符号のGaucheAntiへ、また、中央の結合がAntiであれば二つのGaucheになるように局所的に摂動を加えます。実際にはGaucheからGaucheへ、およびAntiからGaucheへの摂動は、シクロヘキサンのいす型からねじれ船型への変換をまねた操作、いわばDouble Flapすることによって実現でき、そしてGaucheからAntiへは、そのDouble Flapを環の内側に向けて小さく行います。ここで必要なのは中央の結合がAntiAnti-Periplanar)になれば良いのです。また、このとき、Flipする結合とそれを挟む結合の3本のねじれ角パターンにしたがって、Flapする大きさや方向を調節することによって、大きく不安定化しない構造を発生できます。

Edge Flip

以前発表したCONFLEXにおいて、側鎖に対する回転操作は、Flapの補助的な意味しかもっていなかったため、非環式分子や長い側鎖を持つ分子に対して、十分に対応できませんでした。そこでStepwise Rotationを導入し、従来系統的探索法で用いる120度や60度毎の結合強制回転を、Flap/Flipと同じ意味、すなわち一つの局所的な摂動として用いることにしました。この操作は、結合の二面角を単に段階的に回転するだけであるが、確実に基点の配座とは異なる配座を発生し、また回転する結合の二面角以外の内部座標を変化させないので、最適化が速やかに完了します。

CONFLEXのMMFFにいて

CONFLEXに含まれる力場の中で、MMFF94およびMMFF94sでは、分子に含まれるほとんどの原子上に、『結合電荷増分法』という手法を用いて電荷を置くようにしています。これらの電荷は、小さい分子での高精度ab initio分子軌道計算で求められた電荷分布を再現するようにパラメータが決められておりますが、計算の初期段階で電荷分布を決定した後は電荷の値を固定したまま最適化を行っています。
一方でMMFF/NQEqでは、上記手法の代わりに『電荷平衡法(QEq法)』という手法を用いて電荷および静電相互作用エネルギーを計算しております(QEq法の概要は下記参照)。

QEq法では、電荷分布が構造に依存するため構造変化するたびに電荷を計算し直さなければならないのですが、計算自体は簡便なため計算時間の増加は非常に少なく、かつパラメータは我々が独自に最適化したものを用いておりますので、高精度の静電相互作用計算を他の力場と同じくらいの計算時間で可能としております。

電荷平衡法(QEq法):

静電相互作用エネルギーを、原子が電子を引き込む力(1中心項)と電荷を帯びた原子間に働くクーロン力(2中心項)の和として表し、各原子の電気陰性度を平衡化させることで、電荷分布およびエネルギーを求める方法。1991年にRappeとGoddardにより提唱された。

シーエムシー出版 機能材料11月号(2005)
「溶媒効果を取り入れた新規電荷平衡法(NQEq)の開発と分子力場への応用」
中山尚史、長嶋雲兵、後藤仁志

Parallel CONFLEX(並列版)

CONFLEXは鎖状部分の結合の回転、環を構成する原子のFlap・Flipにより、初期構造を変形させます。この微少変形により発生する複数の出発構造を順番に計算していたのですが、Parallel CONFLEXでは複数のCPU/coreに分散させて構造最適化を行います。そして、その結果より得られた最適化構造を集計し、配座チェックを行います。

Parallel Algotithm

並列化の意義

ポストゲノム研究、 有機分子性結晶などで扱う系は非常にサイズが大きい場合が多くCPU/core 単体で手軽に探索計算を行うことはできません 特に分子性結晶構造探索の場合、様々な結晶構造の結晶多形の構造最適化を行う必要があります。 これらの立体構造を分子計算で解析する皆様のために、Parallel CONFLEXは研究時間短縮に効果を発揮します。

3-aza-bicyclo(3.3.1)nonane-2,4-dioneの結晶構造探索

この分子では、11,664個の候補結晶多形構造を発生させ、それぞれ構造最適化することにより、512個のユニークな結晶多形が見つかりました。 その実行時間はグラフのようになり、Workersの個数を増やすと、実行時間は効率よく短縮されます。

Crystal Nonane Parallel Speedup