ほとんどの手法では基底関数系の設定が必要です;
ルートセクションに基底関数系のキーワードが含まれていない場合、STO-3G基底が適用されます。
例外として、基底関数系がその手法の積分計算部分として定義されている場合がいくつかあります;以下にリストします:

  • 全ての半経験的計算手法。励起状態計算手法である ZIndo を含む
  • 全ての分子力学計算手法。
  • 化合物モデル化学:全てのG n 法、CBS法、およびW1法。

上記リスト以外の基底関数系は、 ExtraBasis Gen キーワードを用いて入力することもできます。 ChkBasis キーワードは、 基底関数系をチェックポイントファイル( %Chk コマンドで定義)から読み込むことを示します。 これらのキーワードの詳細は、個別の説明をご参照ください。

Gaussian 16プログラムには、以下の基底関数系が内部に格納されています(詳細な説明は引用文献を参照)。
対応するGaussian 16のキーワード(例外が2つあります)を以下にリストします:

分極および分散関数の追加

単一の第一 分極関数は、 * または ** 表記を使うことで設定することも可能です。 ( d,p )と ** は同義—例えば 6-31G** 6-31G(d,p) は同じ—で、3-21G* 基底関数系は第二周期元素にのみ分極関数が含まれています。 + および ++ で指定する分散関数 [ Clark83 T. Clark, J. Chandrasekhar, G. W. Spitznagel, and P. v. R. Schleyer, “Efficient diffuse function-augmented basis-sets for anion calculations. 3. The 3-21+G basis set for 1st-row elements, Li-F,” J. Comp. Chem. , 4 (1983) 294-301., DOI: 10.1002/jcc.540040303 ] は、いくつかの基底関数系で利用可能で、複数の分極関数を含んだものでもどうようです [ Frisch84 M. J. Frisch, J. A. Pople, and J. S. Binkley, “Self-Consistent Molecular Orbital Methods. 25. Supplementary Functions for Gaussian Basis Sets,” J. Chem. Phys. , 80 (1984) 3265-69., DOI: 10.1063/1.447079 ]。 このキーワードの構文は、次の例で最もよく示されています: 6-31+G(3df,2p) は、6-31G基底関数系に 分散関数、 3組のd関数、および1組のf関数を重原子に、また2組のp関数をH原子に追加することを示しています。

cc-pV * Z 基底関数系に分散関数を加えるのに AUG- 接頭辞を使う場合、 それぞれの原子で使われている各関数型に対して分散関数が一つ加えられます [ Kendall92 R. A. Kendall, T. H. Dunning Jr., and R. J. Harrison, “Electron affinities of the first-row atoms revisited. Systematic basis sets and wave functions,” J. Chem. Phys. , 96 (1992) 6796-806., DOI: 10.1063/1.462569 , Woon93 D. E. Woon and T. H. Dunning Jr., “Gaussian-basis sets for use in correlated molecular calculations. 3. The atoms aluminum through argon,” J. Chem. Phys. , 98 (1993) 1358-71., DOI: 10.1063/1.464303 ]。 例えば、 AUG-cc-pVTZ 基底では水素原子にs, p, d型分散関数を一つずつ、BからNeおよびAlからArにはs,p,d,f型分散関数をそれぞれ一つずつ配置します。

cc-pV * Z 基底関数に加える分散関数を増やすオプションを以下にいくつか示します:

  • spAug-cc-pV * Z は、sおよびp関数のみ増やす指定で、HおよびHeへはs関数を追加します。
  • dAug-cc-pV * Z は、各角運動量について関数を1つではなく2つ増やします。
  • Truhlarによる“カレンダー”基底関数系のバリエーション [ Papajak11 E. Papajak, J. Zheng, H. R. Leverentz and D. G. Truhlar, “Perspectives on Basis Sets Beautiful: Seasonal Plantings of Diffuse Basis Functions,” J. Chem. Theory and Comput., 7 (2011) 3027., DOI: 10.1021/ct200106a ] が利用可能です。このシリーズの基底関数系の命名は、 cc-pV * Z 基底関数系に分極関数を追加したものが Aug-cc-pV * Z として知られていることに由来します。Truhlarは、“Aug”が英語の8月の略語でもあることに注目し、 cc-pV * Z 基底関数系への新しい追加体系を提案して、月の名前にちなんだ命名もしました。 これらは Aug 基底関数系から分散関数を取り除くことで構築されます。例えば、 Jul-cc-pV * Z 基底関数系は Aug-cc-pV * Z からHおよびHeの分散関数を取り除いたものです。 Jun-cc-pV * Z 基底関数系は全原子について最も高い角運動量の分散関数を、 May-cc-pV * Z 基底関数系は最も高い角運動量から順に2つの分散関数を、そして Apr-cc-pV * Z 基底関数系は最も高い角運動量から順に3つの分散関数をそれぞれ取り除いたものになります。

    それでもデフォルトでは、これらの基底関数系には少なくともsとpの分散関数は常に含まれています。これは、いくつかの固有の矛盾を避けるのに有用ですが、Truhlarと共同研究者による元の定義とは異なります。 TJul , TJun 等を用いることで、制限が無条件に適用される元のバージョンを指定することができます: 例えば、 TMay-cc-ppVDZ はClに含まれるのがs型の分散関数だけになりますが、FeとBrにはsとp両方の分散関数を含みます。 一方 May-cc-ppVDZ では、これらの原子全てにsとpの分散関数が含まれています。

6-311G に単一の分極関数を加える(すなわち 6-311G ( d )) )場合、 第一および第二周期の原子には一つのd関数、第一列遷移金属の原子には一つのf関数が加わります。これは、後者の原子にはすでにd関数が原子価電子用にあるためです。 同様に、 6-311G に分散関数を加えると、第三周期の原子に対してs,p,d分散関数を一つずつ増やします。

D95 基底を用いて フローズンコア計算を行う場合、占有内殻軌道とそれに対応する仮想軌道の両方が除外されます。 したがいまして、 D95** による水の計算では26個の基底関数があり、同じ系で 6-31G** の計算では基底関数は25個ですが、 どちらの基底関数系でもフローズンコアのpost-SCF計算では24個の軌道が用いられます。

以下の表では、Gaussian 16に内蔵されている各基底関数系で利用可能な分極および分散関数とその適用範囲をリストしています:

基底関数 適用範囲 分極関数 分散関数
3-21G H-Xe +
6-21G H-Cl * または **
4-31G H-Ne * または **
6-31G H-Kr ( 3df,3pd ) まで + , ++
6-311G H-Kr ( 3df,3pd ) まで + , ++
D95 H-Cl 但しNaとMgを除く ( 3df,3pd ) まで + , ++
D95V H-Ne ( d ) または ( d,p ) + , ++
SHC H-Cl *
CEP-4G H-Rn * (Li-Arのみ)
CEP-31G H-Rn * (Li-Arのみ)
CEP-121G H-Rn * (Li-Arのみ)
LanL2MB H-La, Hf-Bi
LanL2DZ H, Li-La, Hf-Bi
SDD, SDDAll FrとRaを除く全元素
cc-pVDZ H-Ar, Ca-Kr 定義に含む 接頭辞 AUG- により追加 (H-Ar, Sc-Kr)
cc-pVTZ H-Ar, Ca-Kr 定義に含む 接頭辞 AUG- により追加 (H-Ar, Sc-Kr)
cc-pVQZ H-Ar, Ca-Kr 定義に含む 接頭辞 AUG- により追加 (H-Ar, Sc-Kr)
cc-pV5Z H-Ar, Ca-Kr 定義に含む 接頭辞 AUG- により追加 (H-Na, Al-Ar Sc-Kr)
cc-pV6Z H, B-Ne 定義に含む 接頭辞 AUG- により追加 (H, B-O)
SV H-Kr
SVP H-Kr 定義に含む
TZV and TZVP H-Kr 定義に含む
QZVP and Def2 H-La, Hf-Rn 定義に含む
MidiX H, C-F, S-Cl, I, Br 定義に含む
EPR-II , EPR-III H, B, C, N, O, F 定義に含む
UGBS H-Lr UGBS ( 1,2,3 ) P + , ++ , 2+ , 2++
MTSmall H-Ar
DGDZVP H-Xe
DGDZVP2 H-F, Al-Ar, Sc-Zn
DGTZVP H, C-F, Al-Ar
CBSB7 H-Kr 定義に含む + , ++

STO-3G 3-21G * 接尾辞を付けられますが、これにより実際に分極関数が追加されることはありません。

純粋型対 デカルト型との基底関数の違いから生じる注意点

以下の追加キーワードは、基底関数キーワードと一緒に指定することで有用になります:

  • 5D 6D : それぞれ5ないし6個( 純粋またはデカルトd型関数)のd関数を用いる。
  • 7F 10F : それぞれ7ないし10個(純粋またはデカルトf型関数)のf関数を用いる。これらのキーワードはより高い関数(g以上)にも適用される。

Gaussianユーザーは、純粋型とデカルト型基底関数との違いに関連した以下の点に注意する必要があります:

  • Gaussian 16に内蔵している全ての基底関数は、純粋f型関数を用いています。またほとんどの基底関数は純粋d型関数を使っています。 例外は、3-21G, 6-21G, 4-31G, 6-31G, 6-31G†, 6-31G‡, CEP-31G, D95, およびD95Vです。述のキーワードを、デフォルトの純粋型/デカルト型の設定を上書きするのに用います。 例えば、波動関数をcheckpointファイルから読み込み、それを別の型から成る基底関数を使った計算に用いる場合 [ Schlegel95a H. B. Schlegel and M. J. Frisch, “Transformation between Cartesian and Pure Spherical Harmonic Gaussians,” Int. J. Quantum Chem. , 54 (1995) 83-87., DOI: 10.1002/qua.560540202 ] 、基底関数は通常必要に応じて自動的にその型に変換されます。
  • 一つのジョブの中では、全てのd関数は5Dまたは6Dでなければならず、また全てのf以上の関数は純粋型またはデカルト型でなければなりません。
  • ExtraBasis , Gen , GenECP キーワードを使う場合、 ルートセクションで明示的に指定する基底関数系は基底関数のデフォルト形式を常に決定します( Gen では 5D および 7F )。 例えば、3-21Gや6-31G基底関数系の関数をいくつか採用した一般化基底関数を使う場合、 Gen に加えて 6D をルートセクションに明示的に指定しなければ、 純粋型関数が用いられます。同様に、ルートセクションに6-31G(d)基底関数が指定されていて、 ExtraBasis により6-311G(d)基底関数系を遷移金属の基底関数として加えたジョブの場合、 デカルトd型関数が適用されます。同じように、Xeの3-21G基底関数系の基底関数を ExtraBasis を使って6-311G基底関数系に加えたい場合、Xeの基底関数は純粋型関数になります。

Gaussian 16では、純粋DFTを用いる計算に対して 密度フィッティング近似を用意しています [ Dunlap83 B. I. Dunlap, “Fitting the Coulomb Potential Variationally in X-Alpha Molecular Calculations,” J. Chem. Phys. , 78 (1983) 3140-42., DOI: 10.1063/1.445228 , Dunlap00 B. I. Dunlap, “Robust and variational fitting: Removing the four-center integrals from center stage in quantum chemistry,” J. Mol. Struct. (Theochem) , 529 (2000) 37-40., DOI: 10.1016/S0166 ] 。この近似では、クーロン相互作用を計算する際に、二電子積分を全て計算する代わりに、電子密度を原子を中心とした関数の組に展開しています。 これにより、線形スケーリングアルゴリズムを利用するには小さすぎる中規模の系でのピュアDFT計算では、予測構造、相対エネルギー、分子物性値の精度を著しく低下させることなく、大幅なパフォーマンス向上を実現します。 Gaussian 16では、AO基底から適切なフィッティング基底を自動的に生成するか、あるいは用意されているフィッティング基底関数系の一つを選択することが可能です。

以下の例のように、指定したいフィッティング 基底関数系をモデル化学の3番目の要素として設定します:

# BLYP/TZVP/TZVPFit

密度フィッティング基底関数系を設定する場合、計算手法、基底関数系、フィッティング基底関数系の間に入れる区切り文字としてスラッシュを使用する必要があります。

Gaussian 16では、以下のフィッティング基底関数系キーワードが使用できます:

密度フィッティング基底関数系は、基底関数系に含まれる原始AOから自動的に作り出すことができます。 この場合、 フィッティング基底関数系キーワード Auto を使います。プログラムでは、この関数系を妥当な角運動量で自動的に切り捨てます: デフォルトではMax( MaxTyp +1,2* MaxVal )で、 MaxTyp はAO基底中の最大角運動量、 MaxVal は原子価角運動量の最大値になります。生成された全ての関数を Auto=All で使用するか、 または Auto= N で指定したレベルまでにするかのどちらかを指定することができます。 ここで、 N はフィッティング関数で保持される最大角運動量です。 最後に、 PAuto 形式は原始AO関数をただ自乗する代わりにAO関数の積全てを生成しますが、通常これは関数が必要以上に多くなります。

デフォルトでは、フィッティング基底関数系は使用しません。密度フィッティング基底関数系は、 ExtraDensityBasis キーワードにより追加したり、 Gen キーワードで全体を定義したり、またcheckpointファイルから随意に読み出す( ChkBasis を使います)こともできます。 DensityFit キーワードのオプションにより、計算に使用するフィッティング基底関数系の性質のいくつかを制御することが可能です。

Default.Route にあるルートセクション( -#- )行に DensityFit キーワードを追加することで、純粋DFT汎関数を使うジョブでは密度フィッティングをデフォルトにすることができます。 フィッティングは、数百原子までの系(基底関数に依存)ではCoulomb項を正確に計算するよりも速いですが、 より大きな系では線形スケーリング手法(正確なCoulombにより自動的にオンになる)を用いて正確なCoulomb項を求めるよりも遅くなります。