基底関数系
ほとんどの手法では基底関数系の設定が必要です;ルートセクションに基底関数系のキーワードが含まれていない場合、STO-3G基底が適用されます。
例外として、基底関数系がその手法の積分計算部分として定義されている場合がいくつかあります;以下にリストします:
- 全ての半経験的計算手法。励起状態計算手法であるZIndoを含む
- 全ての分子力学計算手法。
- 化合物モデル化学:全てのGn法、CBS法、およびW1法。
上記リスト以外の基底関数系は、ExtraBasisやGenキーワードを用いて入力することもできます。
ChkBasisキーワードは、基底関数系をチェックポイントファイル(%Chkコマンドで定義)から読み込むことを示します。
これらのキーワードの詳細は、個別の説明をご参照ください。
Gaussian 16プログラムには、以下の基底関数系が内部に格納されています(詳細な説明は引用文献を参照)。対応するGaussian 16のキーワード(例外が2つあります)を以下にリストします:
-
STO-3G
[Hehre69,
Collins76]
-
3-21G
[Binkley80a,
Gordon82,
Pietro82,
Dobbs86,
Dobbs87,
Dobbs87a]
-
6-21G
[Binkley80a,
Gordon82]
-
4-31G
[Ditchfield71,
Hehre72,
Hariharan74,
Gordon80]
-
6-31G
[Ditchfield71,
Hehre72,
Hariharan73,
Hariharan74,
Gordon80,
Francl82,
Binning90,
Blaudeau97,
Rassolov98,
Rassolov01]
-
6-31G†:Gaussian 16 には、George Peterssonと共同研究者により様々な完全基底系法
[Petersson88,
Petersson91].
の一部として定義された、6-31G†および6-31G‡基底関数系が含まれています。これらの基底関数系は、
6-31G(d')および6-31G(d',p')キーワードで(それぞれ)指定します。
また、6-31+G(d'f)のように、f関数だけでなく分散関数を1つまたは2つ加えることも可能です。
-
6-311G:第一周期元素には6-311G基底、第二周期元素にはMcLean-Chandlerの(12s,9p) → (621111,52111)基底
[McLean80,
Raghavachari80b]
(P,S,およびCl元素の基底関数系は、McLeanとChandlerによる負イオン基底関数系と呼ばれている;これらは中性分子でも良い結果が得られると考えられていた)、CaとKにはBlaudeauと共同研究者による基底関数系
[Blaudeau97]、第一列遷移金属にはRaghavachariとTrucksのスケール因子
[Raghavachari89]
を用いたWachters-Hayの全電子基底関数系
[Wachters70,
Hay77]
、そして第三周期の他の元素にはMcGrath, Curtissと共同研究者による6-311G基底
[Binning90,
McGrath91,
Curtiss95].
を指定します。Wachters-Hayの基底関数系を第一列遷移金属に適用する場合、RaghavachariとTrucksはスケーリングと分散関数を含めることの両方を推奨しています;
分散関数を含めるには6-311+Gの形式で指定する必要があります。MC-311Gは6-311Gと同じ指定になります。
-
D95V:Dunning/藤永の二倍原子価殻基底
[Dunning77].
-
D95:Dunning/藤永の二倍基底
[Dunning77].
-
SHC:第一周期元素にD95V、第二周期元素にGoddard/SmedleyのECP
[Dunning77,
Rappe81]。SECとしても知られています。
-
CEP-4G:のECP最小基底
[Stevens84,
Stevens92,
Cundari93]。
-
CEP-31G: Stevens/Basch/KraussのECP二倍原子価殻基底
[Stevens84,
Stevens92,
Cundari93]。
-
CEP-121G:Stevens/Basch/KraussのECP三倍原子価殻基底
[Stevens84,
Stevens92,
Cundari93].
第三周期以降ではCEP基底関数系は一つしかありませんので、これらの元素では上記3つのキーワードは同じ設定になることにご注意ください。
-
LanL2MB:第一周期元素にはSTO-3G
[Hehre69,
Collins76]
、Na-LaおよびHf-BiにはLos Alamos ECP+MBS
[Hay85,
Wadt85,
Hay85a]。
-
LanL2DZ:第一周期元素にはD95V
[Dunning77]、
Na-LaおよびHf-BiにはLos Alamos ECP+DZ
[Hay85,
Wadt85,
Hay85a]。
-
SDD:ArまではD95
[Dunning77]
、周期表の残りの元素には Stuttgart/Dresden ECPs
[Fuentealba82,
Szentpaly82,
Fuentealba83,
Stoll84,
Fuentealba85,
Wedig86,
Dolg87,
Igel-Mann88,
Dolg89,
Schwerdtfeger89,
Dolg89a,
Andrae90,
Dolg91,
Kaupp91,
Kuechle91,
Dolg92,
Bergner93,
Dolg93,
Haeussermann93,
Dolg93a,
Kuechle94,
Nicklass95,
Leininger96,
Cao01,
Cao02]。
SDD, SHF, SDF, MHF, MDF, MWB
形式を、Genキーワードの基底関数入力箇所にこれらの基底関数/ポテンシャルを指定するのに用います。内殻電子の数は、これらの形式の後(例えば、MDF28であれば28個の内殻電子をMDFポテンシャルに置き換える)に指定する必要があります。
OldSDD を指定すると、以前のデフォルト設定になります。
-
SDDAll:Z > 2でStuttgartポテンシャルを選択します。
-
cc-pVDZ, cc-pVTZ, cc-pVQZ, cc-pV5Z,
cc-pV6Z:Dunningのcorrelation consistent基底関数系
[Dunning89,
Kendall92,
Woon93,
Peterson94,
Wilson96]
(それぞれ二倍、三倍、四倍、五倍、および六倍)。これらの基底関数系は、計算効率を上げるために余分な関数を削除して回転させています
[Davidson96]。
これらの基底関数系では、分極関数が定義として含まれています。以下の表に、基底関数系に含まれる様々な原子について、存在する原子価分極関数をリストします:
Atoms |
|
cc-pVDZ |
|
cc-pVTZ |
|
cc-pVQZ |
|
cc-pV5Z |
|
cc-pV6Z |
H |
|
2s,1p |
|
3s,2p,1d |
|
4s,3p,2d,1f |
|
5s,4p,3d,2f,1g |
|
6s,5p,4d,3f,2g,1h |
He |
|
2s,1p |
|
3s,2p,1d |
|
4s,3p,2d,1f |
|
5s,4p,3d,2f,1g |
|
利用不可 |
Li-Be |
|
3s,2p,1d |
|
4s,3p,2d,1f |
|
5s,4p,3d,2f,1g |
|
6s,5p,4d,3f,2g,1h |
|
利用不可 |
B-Ne |
|
3s,2p,1d |
|
4s,3p,2d,1f |
|
5s,4p,3d,2f,1g |
|
6s,5p,4d,3f,2g,1h |
|
7s,6p,5d,4f,3g,2h,1i |
Na-Ar |
|
4s,3p,1d |
|
5s,4p,2d,1f |
|
6s,5p,3d,2f,1g |
|
7s,6p,4d,3f,2g,1h |
|
利用不可 |
Ca |
|
5s,4p,2d |
|
6s,5p,3d,1f |
|
7s,6p,4d,2f,1g |
|
8s,7p,5d,3f,2g,1h |
|
利用不可 |
Sc-Zn |
|
6s,5p,3d, 1f |
|
7s,6p,4d,2f,1g |
|
8s,7p,5d,3f,2g,1h |
|
9s,8p,6d,4f,3g,2h,1i |
|
利用不可 |
Ga-Kr |
|
5s,4p,2d |
|
6s,5p,3d,1f |
|
7s,6p,4d,2f,1g |
|
8s,7p,5d,3f,2g,1h |
|
利用不可 |
AUG-接頭辞を基底関数系キーワードに追加(+や++表記を使うのではなく—以下参照)することで、分散関数を増やすことができます。
-
Ahlrichsと共同研究者の基底関数系:キーワードSV, SVP,
TZV, TZVP
は、彼らのグループ
[Schaefer92,
Schaefer94]
による原子価殻分割および三倍基底関数系の初期の定式化を参照しています。キーワードDef2SV, Def2SVP, Def2SVPP,
Def2TZV, Def2TZVP, Def2TZVPP, Def2QZV, Def2QZVP,
Def2QZVPP, およびQZVPでは、より新しい定式化
[Weigend05,
Weigend06]
を採用しています。
-
Truhlarと共同研究者のMIDI!
[Easton96]。
MidiXキーワードを用いて指定します。
-
EPR-IIとEPR-III:Barone
[Barone96a]
によりDFT法(特にB3LYP)で超微細結合定数を計算するために最適化された基底関数系です。EPR-IIは、一組の分極関数とs部分を増やした二倍基底関数系(Hは(6,1)/[4,1]、BからFは(10,5,1)/[6,2,1])です。
EPR-IIIは、分散関数、二組のd分極関数、および一組のf分極関数を含んだ三倍基底関数系です。
この場合でも、s部分は原子核領域をよりよく記述するために改良されています(Hは(6,2)/[4,2]、BからFは(11,7,2,1)/[7,4,2,1])。
-
UGBS:de Castro, Jorge、および共同研究者
[Silver78,
Silver78a,
Mohallem86,
Mohallem87,
daCosta87,
daSilva89,
Jorge97,
Jorge97a,
deCastro98]によるuniversal Gaussian基底関数系。このキーワードに接尾辞を含めることで、分極関数を追加することができます:
UGBSnP|V|O
ここでnは、標準のUGBS基底関数系の各関数に1、2、または3つの分極関数を加えることを示す整数です。
2番目の項目は、どの関数に対して分極関数を増やすかを示すコード文字です:Pは全ての関数について分極関数を追加、
Vは全ての原子価関数について追加、そしてOはGaussian 03で使われていた体系(以下参照)を指定します。
例えば、UGBS1Pキーワードは全ての軌道に一つの分極関数を追加、UGBS2Vは全ての原子価軌道に2つの分極関数を追加することになります。
接尾辞Oにより、Gaussian 03のUGBSnPキーワードと同じ関数を追加します。
UGBS1Oでは一つのp関数を各s関数に、一つのd関数を各p関数に、などです;UGBS2Oでは、pおよびd関数一つずつを各s関数に、
dおよびf関数一つずつを各p関数にそれぞれ加え、UGBS3Oではp,d,f関数を各s関数に加える、などのようになります。
分散関数は、従来通り+または++で追加することができます;
これらのうち最初の指定を2+とすることで、重原子に2つの分散関数を追加することができます。
-
W1法(W1Uキーワード参照)
[Martin99]の一部として定義された、Martinとde OliveiraのMTSmall。
-
DGaussで使われているDGDZVP, DGDZVP2
およびDGTZVP基底関数
[Godbout92,
Sosa92].
-
CBSB7:CBS-QB3高精度エネルギー計算手法
[Montgomery99]
で用いられている6-311G(2d,d,p)基底関数系を選択します。この基底関数系の表記は、第二周期元素に2つのd型分極関数、第一周期元素に1つのd関数、
水素原子にp関数を指定することを意味します(このように分極関数を3つに分けて指定する構文は、Gaussian 16ではサポートしていません )。
分極および分散関数の追加
単一の第一分極関数は、*または**表記を使うことで設定することも可能です。
(d,p)と**は同義—例えば6-31G**と6-31G(d,p)は同じ—で、
3-21G* 基底関数系は第二周期元素にのみ分極関数が含まれています。
+および++で指定する分散関数
[Clark83]
は、いくつかの基底関数系で利用可能で、複数の分極関数を含んだものでもどうようです
[Frisch84]。
このキーワードの構文は、次の例で最もよく示されています:6-31+G(3df,2p)は、6-31G基底関数系に分散関数、
3組のd関数、および1組のf関数を重原子に、また2組のp関数をH原子に追加することを示しています。
cc-pV*Z基底関数系に分散関数を加えるのにAUG-接頭辞を使う場合、
それぞれの原子で使われている各関数型に対して分散関数が一つ加えられます
[Kendall92,
Woon93]。
例えば、AUG-cc-pVTZ基底では水素原子にs, p, d型分散関数を一つずつ、BからNeおよびAlからArにはs,p,d,f型分散関数をそれぞれ一つずつ配置します。
cc-pV*Z基底関数に加える分散関数を増やすオプションを以下にいくつか示します:
-
spAug-cc-pV*Zは、sおよびp関数のみ増やす指定で、HおよびHeへはs関数を追加します。
-
dAug-cc-pV*Zは、各角運動量について関数を1つではなく2つ増やします。
-
Truhlarによる“カレンダー”基底関数系のバリエーション
[Papajak11]
が利用可能です。このシリーズの基底関数系の命名は、cc-pV*Z基底関数系に分極関数を追加したものが
Aug-cc-pV*Zとして知られていることに由来します。Truhlarは、“Aug”が英語の8月の略語でもあることに注目し、
cc-pV*Z基底関数系への新しい追加体系を提案して、月の名前にちなんだ命名もしました。
これらはAug基底関数系から分散関数を取り除くことで構築されます。例えば、Jul-cc-pV*Z基底関数系は
Aug-cc-pV*ZからHおよびHeの分散関数を取り除いたものです。
Jun-cc-pV*Z基底関数系は全原子について最も高い角運動量の分散関数を、May-cc-pV*Z
基底関数系は最も高い角運動量から順に2つの分散関数を、そしてApr-cc-pV*Z
基底関数系は最も高い角運動量から順に3つの分散関数をそれぞれ取り除いたものになります。
それでもデフォルトでは、これらの基底関数系には少なくともsとpの分散関数は常に含まれています。これは、いくつかの固有の矛盾を避けるのに有用ですが、Truhlarと共同研究者による元の定義とは異なります。
TJul, TJun等を用いることで、制限が無条件に適用される元のバージョンを指定することができます:
例えば、TMay-cc-ppVDZはClに含まれるのがs型の分散関数だけになりますが、FeとBrにはsとp両方の分散関数を含みます。
一方May-cc-ppVDZでは、これらの原子全てにsとpの分散関数が含まれています。
6-311Gに単一の分極関数を加える(すなわち6-311G(d)) )場合、
第一および第二周期の原子には一つのd関数、第一列遷移金属の原子には一つのf関数が加わります。これは、後者の原子にはすでにd関数が原子価電子用にあるためです。
同様に、6-311Gに分散関数を加えると、第三周期の原子に対してs,p,d分散関数を一つずつ増やします。
D95基底を用いてフローズンコア計算を行う場合、占有内殻軌道とそれに対応する仮想軌道の両方が除外されます。
したがいまして、D95**による水の計算では26個の基底関数があり、同じ系で6-31G**の計算では基底関数は25個ですが、
どちらの基底関数系でもフローズンコアのpost-SCF計算では24個の軌道が用いられます。
以下の表では、Gaussian 16に内蔵されている各基底関数系で利用可能な分極および分散関数とその適用範囲をリストしています:
基底関数 |
|
適用範囲 |
|
分極関数 |
|
分散関数 |
3-21G |
|
H-Xe |
|
|
|
+ |
6-21G |
|
H-Cl |
|
*または** |
|
|
4-31G |
|
H-Ne |
|
*または** |
|
|
6-31G |
|
H-Kr |
|
(3df,3pd)まで |
|
+,++ |
6-311G |
|
H-Kr |
|
(3df,3pd)まで |
|
+,++ |
D95 |
|
H-Cl 但しNaとMgを除く |
|
(3df,3pd)まで |
|
+,++ |
D95V |
|
H-Ne |
|
(d) または (d,p) |
|
+,++ |
SHC |
|
H-Cl |
|
* |
|
|
CEP-4G |
|
H-Rn |
|
* (Li-Arのみ) |
|
|
CEP-31G |
|
H-Rn |
|
* (Li-Arのみ) |
|
|
CEP-121G |
|
H-Rn |
|
* (Li-Arのみ) |
|
|
LanL2MB |
|
H-La, Hf-Bi |
|
|
|
|
LanL2DZ |
|
H, Li-La, Hf-Bi |
|
|
|
|
SDD, SDDAll |
|
FrとRaを除く全元素 |
|
|
|
|
cc-pVDZ |
|
H-Ar, Ca-Kr |
|
定義に含む |
|
接頭辞 AUG- により追加 (H-Ar, Sc-Kr) |
cc-pVTZ |
|
H-Ar, Ca-Kr |
|
定義に含む |
|
接頭辞 AUG- により追加 (H-Ar, Sc-Kr) |
cc-pVQZ |
|
H-Ar, Ca-Kr |
|
定義に含む |
|
接頭辞 AUG- により追加(H-Ar, Sc-Kr) |
cc-pV5Z |
|
H-Ar, Ca-Kr |
|
定義に含む |
|
接頭辞 AUG- により追加 (H-Na, Al-Ar Sc-Kr) |
cc-pV6Z |
|
H, B-Ne |
|
定義に含む |
|
接頭辞 AUG- により追加 (H, B-O) |
SV |
|
H-Kr |
|
|
|
|
SVP |
|
H-Kr |
|
定義に含む |
|
|
TZV and TZVP |
|
H-Kr |
|
定義に含む |
|
|
QZVPand Def2 |
|
H-La, Hf-Rn |
|
定義に含む |
|
|
MidiX |
|
H, C-F, S-Cl, I, Br |
|
定義に含む |
|
|
EPR-II, EPR-III |
|
H, B, C, N, O, F |
|
定義に含む |
|
|
UGBS |
|
H-Lr |
|
UGBS(1,2,3)P |
|
+,++,2+,2++ |
MTSmall |
|
H-Ar |
|
|
|
|
DGDZVP |
|
H-Xe |
|
|
|
|
DGDZVP2 |
|
H-F, Al-Ar, Sc-Zn |
|
|
|
|
DGTZVP |
|
H, C-F, Al-Ar |
|
|
|
|
CBSB7 |
|
H-Kr |
|
定義に含む |
|
+,++ |
純粋型対デカルト型との基底関数の違いから生じる注意点
以下の追加キーワードは、基底関数キーワードと一緒に指定することで有用になります:
-
5Dと6D:
それぞれ5ないし6個(純粋またはデカルトd型関数)のd関数を用いる。
-
7Fと10F:
それぞれ7ないし10個(純粋またはデカルトf型関数)のf関数を用いる。これらのキーワードはより高い関数(g以上)にも適用される。
Gaussianユーザーは、純粋型とデカルト型基底関数との違いに関連した以下の点に注意する必要があります:
- Gaussian 16に内蔵している全ての基底関数は、純粋f型関数を用いています。またほとんどの基底関数は純粋d型関数を使っています。
例外は、3-21G, 6-21G, 4-31G, 6-31G, 6-31G†, 6-31G‡, CEP-31G, D95, およびD95Vです。述のキーワードを、デフォルトの純粋型/デカルト型の設定を上書きするのに用います。
例えば、波動関数をcheckpointファイルから読み込み、それを別の型から成る基底関数を使った計算に用いる場合
[Schlegel95a]
、基底関数は通常必要に応じて自動的にその型に変換されます。
- 一つのジョブの中では、全てのd関数は5Dまたは6Dでなければならず、また全てのf以上の関数は純粋型またはデカルト型でなければなりません。
- ExtraBasis, Gen, GenECPキーワードを使う場合、
ルートセクションで明示的に指定する基底関数系は基底関数のデフォルト形式を常に決定します(Genでは5Dおよび7F)。
例えば、3-21Gや6-31G基底関数系の関数をいくつか採用した一般化基底関数を使う場合、Genに加えて6Dをルートセクションに明示的に指定しなければ、
純粋型関数が用いられます。同様に、ルートセクションに6-31G(d)基底関数が指定されていて、ExtraBasisにより6-311G(d)基底関数系を遷移金属の基底関数として加えたジョブの場合、
デカルトd型関数が適用されます。同じように、Xeの3-21G基底関数系の基底関数をExtraBasisを使って6-311G基底関数系に加えたい場合、Xeの基底関数は純粋型関数になります。
Gaussian 16では、純粋DFTを用いる計算に対して密度フィッティング近似を用意しています
[Dunlap83,
Dunlap00]
。この近似では、クーロン相互作用を計算する際に、二電子積分を全て計算する代わりに、電子密度を原子を中心とした関数の組に展開しています。
これにより、線形スケーリングアルゴリズムを利用するには小さすぎる中規模の系でのピュアDFT計算では、予測構造、相対エネルギー、分子物性値の精度を著しく低下させることなく、大幅なパフォーマンス向上を実現します。
Gaussian 16では、AO基底から適切なフィッティング基底を自動的に生成するか、あるいは用意されているフィッティング基底関数系の一つを選択することが可能です。
以下の例のように、指定したいフィッティング基底関数系をモデル化学の3番目の要素として設定します:
# BLYP/TZVP/TZVPFit
密度フィッティング基底関数系を設定する場合、計算手法、基底関数系、フィッティング基底関数系の間に入れる区切り文字としてスラッシュを使用する必要があります。
Gaussian 16では、以下のフィッティング基底関数系キーワードが使用できます:
密度フィッティング基底関数系は、基底関数系に含まれる原始AOから自動的に作り出すことができます。
この場合、フィッティング基底関数系キーワードAutoを使います。プログラムでは、この関数系を妥当な角運動量で自動的に切り捨てます:
デフォルトではMax(MaxTyp+1,2*MaxVal)で、MaxTypはAO基底中の最大角運動量、
MaxValは原子価角運動量の最大値になります。生成された全ての関数をAuto=Allで使用するか、
またはAuto=Nで指定したレベルまでにするかのどちらかを指定することができます。
ここで、Nはフィッティング関数で保持される最大角運動量です。
最後に、PAuto形式は原始AO関数をただ自乗する代わりにAO関数の積全てを生成しますが、通常これは関数が必要以上に多くなります。
デフォルトでは、フィッティング基底関数系は使用しません。密度フィッティング基底関数系は、ExtraDensityBasisキーワードにより追加したり、
Genキーワードで全体を定義したり、またcheckpointファイルから随意に読み出す(ChkBasisを使います)こともできます。
DensityFitキーワードのオプションにより、計算に使用するフィッティング基底関数系の性質のいくつかを制御することが可能です。
Default.Routeにあるルートセクション(-#-)行に
DensityFitキーワードを追加することで、純粋DFT汎関数を使うジョブでは密度フィッティングをデフォルトにすることができます。
フィッティングは、数百原子までの系(基底関数に依存)ではCoulomb項を正確に計算するよりも速いですが、
より大きな系では線形スケーリング手法(正確なCoulombにより自動的にオンになる)を用いて正確なCoulomb項を求めるよりも遅くなります。
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